つい最近、カンボジアのシエムリアップで人質事件があった。犯人はインターナショナル・スクールに立てこもって、子供たちの解放と引き換えに千ドルを要求した。しかし事件発生から半日後、警察の特殊部隊が突入し、犯人はあっけなく逮捕される。銃撃戦が始まり犯人の一人は動揺したのだろう、泣き叫ぶカナダ人の子供の頭を拳銃で撃ちぬいた。

覆面をした犯人はすべて20代の若者だった。貧しい地方からの出稼ぎ組で、以前は首都プノンペンの警備会社に勤めていたという。中心人物の一人はシエムリアップに来て、土産物屋を経営する韓国人のドライバーをしていたが、ある日遅刻して雇い主に二度平手打ちをされる。
「頭にきた。韓国人の子供を誘拐して金を奪おうと思った」
事件を起こすきっかけは、たったこれだけの理由である。

シエムリアップは以前とても静かな町だった。アンコールワットへ続く一本道は静まり返り、周りに広がる田畑には、水牛がのんびりと戯れているのどかな風景が続いていた。しかし今は凄まじい変わりようである。外国からの資本で巨大ホテルが所狭しと建設され、観光収入は巨大な額に及んでいる。しかしそれも、地元の発展に繋がっていない。町から数キロ離れている村に行くと、電気も水道も未だに設備されておらず、子供たちも満足な教育は受けることができずにいる。そして町に仕事に出る若者たちが増え、農村では急激に過疎化が進んでいるのが現状だ。

エイズや人身売買などの取材を続けているが、カンボジアの内戦後の社会の歪みは酷いものだと感じる。学歴があってもコネがないと仕事につけず、字も読めない地方出身者たちは都市に出てきて途方にくれる。どんなに貧しくても、銃を使って金を奪うという行為は容易に出来るものではない。しかし若者たちは、高級車を乗り回して贅沢をする人々を目の当たりにし、現実をどうすることも出来ない自身に絶望し、そしてある日、ぷつっと糸が切れてしまったのだろう。

メディアはこの事件の裏に、政治的な意味合いがあるのではないかと当初憶測していたが、結局雇い主に対する恨みと少しばかりの身代金目当ての事件であった。この事件は、カンボジアが抱える問題を浮き彫りにした。

オイガ! エスクチャメ プレンサ=後藤 勝